その他の短編小説 D いくつもの、小さな子供のような白いもの。 それが僕に向かって一斉に手を伸ばしている。 「チョウダイ。ソノ体チョウダイ」 子供のような年寄りのような奇妙にしわがれた声が聞こえる。 ざわざわざわざわ。 蠢いている。声がする。 「要ラナイナラ、チョウダイ」 「欲シイヨ。体ガ欲シイヨ」 「ソノ体ヲオクレ」 僕は心底気味悪くなって後ずさった。 けれどそんな僕を追って、白い手が何本も何本も伸びてくる。 「チョウダイ。チョウダイヨ……」 声が、白い手が、執拗に僕に求める。 「欲シイヨ」 「体ガ、欲シイヨ」 「チョウダイ」 「チョウダイ!」 「チョウダイ!!」 「うわぁあぁぁあぁっっ!!」 その瞬間、僕は思った。 死にたくない! 死にたくない!! 助けて――― 目を開けると、そこは先ほどまでいたビルの屋上だった。 コンクリートの床の上に大の字になって、僕はどうやら気を失っていたようだ。 ゆっくりと体を起こし、僕はそろそろと辺りを見回した。 「……」 誰もいない。 ガランとしたコンクリートの建物、格子状の金網、いつもと同じ灰色の空。ただそれだけ。 「……」 屋上にひとりポツンと座る僕の頬を、熱気を孕んだ風が撫でていく。 何だろう。頭が妙にぼんやりする。もしかしてコンクリートにどこか打ち付けたんだろうか。 「いったい何があったんだ……?」 ふらふらする頭で考える。けれど何も思い出せない。 そもそもどうして自分はこんなところにいるんだろう? それすら思い出せない。 しばらくその場に座り込んでいたのだが、 「ダルい。そろそろ帰るかぁー……」 僕は立ち上がり、脇にあったカバンを持つとその場を立ち去った。 ********* [前へ][次へ] [戻る] |