その他の短編小説 C 「あなたが何の心配もなく死ねるように、私が手伝ってあげようって言ってるのよ」 何……だって? 「あなたの体に傷一つつけず、誰にも迷惑をかけず、あなたの両親も悲しまない。そんな死に方をあなたしたくなぁい?」 女の赤い唇が吊り上がる。僕を見上げてくる瞳が不気味なくらい輝いている。 僕はこくんと喉を鳴らした。 何なんだよ?この女、いきなり何を言い出すんだ? 「ンなこと、出来るわけ……」 僕は呆然と女を見下ろした。 「簡単なことよ。あなたの体から、あなたの魂を引きずり出せばいいんだもの」 「え?!」 僕はぎょっとして女を見つめた。女は相変わらず笑っている。 「大丈夫、少しも痛くなんてないから。あなたはただじっとしていればいいの。目をつぶって……あっという間に終わっちゃうわよ」 ちょっ、ちょっと、マジかよ? こいつ本気でそんなこと言ってんの?! 驚いている僕にかまわず、女はいきなり着ていた上着を脱いだ。女のなだらかな肩があらわになる。 「そのかわり――」 女の左肩、その白い肌にじわじわと染みのようなものが浮かび上がる。 「あなたの体を頂戴」 「え?」 女はぐいと僕に近づいてきた。 その唇が濡れたように赤いのが目につく。左肩の染みがどんどん大きくなっていく。 「この子達が、あなたの体を欲しがっているの」 女がそう言った途端、肩の染みが膨れ上がり、何か白いもやもやっとしたものがたくさん溢れ出す。 それはだんだんはっきりとしてきて、何かの形を作り始める。 「ねえ、この子達にくれるでしょう?だってもうあなたには要らないものなんだから」 女は楽しそうに笑っている。 「そうして、この子達があなたの代わりに、あなたとして生きていくのよ。誰もあなたが居なくなったなんて気付かない。……ね、名案でしょ?」 「あ――」 僕は声を失った。 その『何か』は小さな人の形をしていたのだ。 [前へ][次へ] [戻る] |