その他の短編小説
A
僕は立ち上がり、黙ったまま靴を履いてその場を立ち去ろうとした。
すると、非常用の出入口の扉に手をかけたところで、またしても女が話しかけてくる。
「あら、やめちゃうの?」
僕はいよいよ頭にきた。
「何なんだよ、あんた?!」
「何、って、何が?」
「あのさぁ――」
ニヤニヤと笑いながら僕に近づいてくる女を、僕は高圧的に見下ろした。
「俺に『死ぬな』とか説教したいわけ?はっきり言ってそういうのお断りだよ」
我ながらものすごく冷たくて低い声でそう言ってやる。
これで女が怯えていなくなってくれればもうけもんだ。
だが、予想に反して、その女はけらけらと声を上げて笑い出した。そして僕に近づくと、いきなり僕の顔に指を伸ばす。
「うん。なかなか悪くないわね」
女の赤い爪が僕の頬に食い込む。値踏みするように僕の顔をじろじろ無遠慮に眺め回す。
「何すんだよ!!」
僕は女の手を振り払った。
かなり強く打ったはずなのに、女はちっとも痛そうじゃない。むしろますます楽しそうに笑っている。
「元気があり余ってるみたいね。良かった。せっかく手に入れても、活きが悪いんじゃしょうがないもの」
は?何言ってんだ、こいつ?!もしかして頭おかしいんじゃないの?
僕は訳がわからなくて、薄気味悪く女を見つめた。
そんな僕におかまいなく、女はまた僕に近寄ろうとする。
「俺に触んなよ」
僕は警告を発した。
すると女はしげしげと僕の顔を見て、こんなことを言い出した。
「ねえ、飛び降りたりしなくても、もっと簡単に死ねる方法を教えてあげる」
「はあ?!」
「あなただって、飛び降りなんかして、自分の頭が割れてぐちゃぐちゃになったりしたら嫌でしょ?」
おいおい。エグいこと言うなよ。思わず想像しちゃったじゃないか。
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