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男は思わず女を抱き締めていた。
「好きだ――!君と離れるなんて嫌だ」
「……」
「どうしたらいい?俺はもう君を忘れられない。どうしても君と一緒にいたい。……俺は、どうすればいい?」
「……」
男の必死の訴えに、女はそれ以上抗うことは出来なかった。
翌日、二人は山を下りて、男の暮らす村へと帰って行った。
三週間ぶりに村に戻り、しかも若く美しい妻を伴っていた男に、村人たちはたいそう驚いた。
だが男が山に登ったことを知らない村人たちは、余所から嫁をもらうために出掛けていたという男の話を信じて疑わなかった。
男と女は仲睦まじく暮らしていた。
女はすぐに村の生活にも村人たちにも溶け込み、村人たちも女をあたたかく受け入れた。
だが村での生活がひと月を過ぎようというころ、女の様子に変化が現れはじめた。
女の顔からは笑いが消え、青白い顔で塞ぎ込むようになった。きらきらと輝いていた瞳は濁り、その体は急激にやせ衰えていった。
心配した男は、女を医者に見せ、惜しげもなく高い薬を与えたが、女の容態はますます悪くなるばかりだった。
そしてふた月が過ぎたときは、女はもう自力で起き上がることすら出来なくなってしまった。
「どうしてなんだ? いったいどうしてこんなことに――?」
女の枕辺で男は泣いた。
すっかり動けなくなった女は、悲しそうにただ男を見つめていた。
女の顔は無残なほどにやつれ果て、もうその瞳に輝きはなかった。
そんな女の手を両手で握り、男は涙ながらに訴えた。
「死なないでくれ。頼む」
「……」
「――どんな姿でもいいから生きていて欲しい」
男の言葉に、女の目からも涙がこぼれた。
そして、
「どんな姿でもいいと、あなた、本気で言うの?」
突然、女の口から言葉がこぼれた。
男は驚いて女の顔を見つめると、震える声で言った。
「お前、口が利けたのか?」
男の問いに女は答えず、ただ同じ質問を繰り返した。
「たとえどんな姿でもいいと、あなた、本心からそう言うの?」
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