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 その年の夏の終わり。

 私は同じ場所にひとり佇んでいた。
 傍にもうあなたはいない。どこを探してもあなたはいない。

 あなたは、あの水平線よりもっとずっと遠く……きっと『天国』と呼ばれるところに行ったのだから。



 私は灯台の下にひとり立つ。
 隣にあなたがいるような気がして、たまらなくなって話しかける。
 「海、綺麗だね」
 ――うん。そうですね。
 あなたにそう答えて欲しい。
 私の隣に立って、一緒にこの海を見ていて欲しい。

 もしも願いが叶うなら、ほんの一瞬でもいい、あなたに会いたい。
 そしたらあのたくさんの質問をあなたにするのに。私がどれほどあなたを好きか伝えるのに。
 もうこの体いっぱいで、あなたをぎゅうっと抱き締めるのに。

 でも分かってる。
 そんな奇跡なんて起こらない。
 そんなこと悔しいぐらい分かってる。

 だから――。

 これから先ずっと忘れないからね。
 あなたのこと。
 あなたと出会ったこと。
 あなたと話したこと。
 あなたの笑った顔。
 あなたとの約束。
 私が知る、あなたのすべて。
 あなたを好きだったこと。
 絶対に忘れないから。
 私、ずっとずっと覚えているから。

 そしていつか、いま私の抱えていることすべてを笑える日が来たら。
 あなたのことさえ『思い出』として笑える日が来たら。

 その時は一緒に笑ってください。
 私の大好きなあの笑顔で、天国から私に向かって笑いかけてください。

 どうかお願いします。




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 今でもときどき、夕暮れを見ると胸が締め付けられるような想いがする。
 でもそれは哀しいからじゃない。
 その感情は――。
 とても言葉では表現できない。

 ただ、ひとつ言える事。

 「今も、私の中にあなたはいるよ。ちゃんと、ここに」

 暮れてゆく空に私は言う。
 きっと私の言葉はあなたに届いているでしょう。
 きっと私の想いはあなたに届いているでしょう。

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あきゅろす。
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