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A
 いかにも子供らしく頬をふくらませたカナタが唇を尖らせると、セツナはますます笑みを濃くした。
 「大丈夫、明日の朝には普通の影に戻っている」
 「本当?」
 大きな目をくりくりさせながら尋ねると、
 「本当だよ。僕が、君に嘘を言ったことがあったかい?」
 逆に尋ねられて、カナタは力いっぱい首を振る。セツナの言うことはいつだって正しいのだ。
 「ううん。そんなことない」
 「だろう?それより、早く影を縫い付けないと、影が勝手に動き出してしまうよ」
 「えっ?」
 しなやかな指先を向けられて、慌てて自分の手元を見る。
 セツナの言葉の通り、驚いてカナタが手を放した隙に、影はふらふらと踊るようにカナタの手から抜け出していった。

 「あ、こら。まて」
 カナタは急いで影を追いかける。
 影は月光を浴びてますます金色に輝き、それを追いかけるカナタはいつのまにか元の姿に戻ってしまっていた。
 「やれやれ」
 長い腕を組みながら、セツナはため息をついた。
 「まだカナタには、長い時間人間の姿を維持するのは難しいか……」
 苦笑まじりに言うが、影と追いかけっこをしているカナタを見つめる瞳はやはりとても優しい。
 その視線の先には、大きな満月を背景に、自分の影と戯れる小さな黒い仔猫。
 「まったく、あれじゃ、どっちが影だかわからないな」
 ぴょんぴょんと跳ねながら影を追いかける。まるで鬼ごっこをするように。
 そんな二匹の様子を眺めながら、
 「まあ、いいか。夜はまだまだ長いのだから」
 セツナはそう呟いて、楽しそうに満月を見上げた。




おわり



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