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 翌朝早く、たくさんの人たちと一緒に、この町の市長が広場を通りかかりました。
 市長は、広場の中央に来ると、そこに立つみすぼらしい像を見咎めました。
 「なんだあのみすぼらしい像は!あれのどこが『幸福な王子』なんだ。あれじゃまるで乞食じゃないか。見ろ、足元には死んだ鳥までいる。何とも汚らしい。まったくもってけしからん!」
 市長が言うと、人々はもっともだと頷き合いました。
 そこでみんなは『幸福な王子』の像を引き下ろし、台座の隅で死んでいた鳥を塵の山へと投げ捨てました。それから、像を炉で溶かし、別の、もっと立派な像を立てることに決めました。

 ところが不思議なことに、『幸福な王子』の体の中にあった鉛の心臓だけは、何としても溶かすことが出来なかったのです。
 仕方がないのでみんなは、つばめの死骸がころがっている塵の山に、その鉛の心臓を捨てました。何の役にも立たない鉛など捨てるよりほかにないのです。

 こうして町中の人が、『幸福な王子』のことなどあっという間に忘れてしまいました。



 ある日、神様が天使たちに言いました。
 「町中で最も貴いものをここへ持ってきなさい」
 ひとりの天使が、『幸福な王子』の鉛の心臓と、固く冷たくなった小さなつばめの体を天国へ持ち帰りました。それは何ともみすぼらしく汚らしいものたちでした。
 しかし、それを見た神様は、心から満足そうに頷き、その天使に言いました。
 「おまえの選択は正しかった」



(オスカー・ワイルド作『幸福な王子』より)
※設定等は『幸福な王子』とはだいぶ変更しています。





おわり


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あきゅろす。
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