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B
 冷たい木枯らしが、私の羽を容赦なく切りつける。
 きっともうすぐ私のこの羽は使い物にならなくなるだろう。私はもう二度と空を飛べなくなるだろう。
 でも、かまわない。
 王子様の体にはめ込まれていた宝石はすでになく、王子様の全身を覆っていた純金の残りもあとほんの僅か。それさえ無事に貧しい人々の元へ運ぶことが出来たら、私はそれで十分満足なのよ。
 だから私は今日も精いっぱい空を飛びましょう。

 「小さなつばめさん、私の代わりに、この金を町外れに住む老人に届けてくれるかい?」
 「分かりましたとも、王子様」
 私の王子様。町の誰からも愛される『幸福な王子』。
 少しでもあなたの役に立てるのなら、私は―――。




**********




 やがて町が白い雪に覆われる頃。
 つばめは最後の力を振り絞って、『幸福な王子』の肩に飛び上がりました。そして、つぶやくように言いました。
 「さようなら、王子様」
 つばめの言葉を聞いた王子は、見えない瞳で嬉しそうに笑いました。
 「良かった。お前が南へ行くことになって嬉しいよ。小さなつばめさん、お別れのキスをしておくれ」
 つばめはゆっくり首を振りました。
 「王子様、私が行くのは南ではありません。私はこれから死の国へ旅立つのです。……さようなら」
 つばめは王子の唇にキスをすると、王子の足元へぽとりと落ちました。
 「つばめさん?」
 王子が声をかけましたが、つばめはもう二度と返事をしませんでした。
 その瞬間、何かが壊れたような、ピシリという音が響きました。『幸福な王子』の鉛の心臓が真っ二つに割れたのです。

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あきゅろす。
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