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 本当のしあわせを誰もが口にするけれど、
 本当のしあわせは簡単には手に入らないもの。

 本当のしあわせを手に入れたければ、
 決して探してはいけません。

 本当のしあわせが欲しければ、
 心に正直におなりなさい。
 ただ毎日を懸命においきなさい。

 そうすれば、
 本当のしあわせは、いつかあなたの足元に、
 素知らぬ顔でやって来るから。




■幸福な王子■





 風が告げる。
 もうすぐ冬が来るよ。
 風が誘う。
 さあ、早く南へ渡ろう。

 仲間たちはみんなその風に導かれるように旅立って行った。
 はるか遠い南の国を目指して。
 そうやって寒い寒い冬をやり過ごし、また来年元気にここへ戻ってくるために。
 それが私たち渡り鳥の習性。生き残るためにご先祖様たちが編み出した知恵。
 だから、私も旅に出なくてはならない。
 生きるために。
 仲間たちを追って、早くこの地を飛び立たなければ――。

 けれど。
 私はまだこの町にとどまっている。
 期限は刻々と迫っているのに、私にはどうしても決心がつかないのだ。

 「マチルダ、どうしたの?さあ、早く一緒に行きましょう?」
 最後まで私を気遣って残ってくれた友達のグレタ。
 ごめんなさい。このままではあなたまで巻き込んでしまう。
 「お願い、グレタ。私を置いて、先に行ってくれないかしら?」
 「駄目よ。そんなこと出来ないわ」
 きっぱりと首を振るグレタに、私は涙が出そうになってくる。
 「大丈夫だから。お願い、先に行って頂戴」
 「駄目よ。あなたも一緒に行くのよ」
 「でも……」
 「ここはとても寒いわ。さあ、ここを出て南へ向かいましょう。みんなが待っているわ」
 頑なな私を、グレタは必死に説得しようとしてくれる。

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