その他の短編小説 @ ** 三万打大感謝 ** 雪 茜さまに捧ぐ… 雪が降る。 今年一番はじめの雪が降る。 それは、もしかしたら……… White Snow 秋の深まりも最盛期を通り越し、地面を白く彩る霜柱が、冬の訪れが近いことを教えてくれる。 そう。もうすぐ冬が来るのだ。 空はますます透明になり、澄んだ空気がベールのように地上を覆う。草木が深い眠りに就き、生き物たちは息を潜める、一年で一番静かで神聖な季節。 そして、雪の精霊にとって、待ちに待った季節がやって来る。 まだ秋の名残りがある空の透き間から、雪の精霊はそっと地上の様子を伺う。 それは、とある街の小さな公園。 (居た――) 街灯の下にある木製のベンチの上に、お目当ての人物を見つけて、雪の精霊の白い頬がうっすらと薔薇色に染まる。 (間違いなく彼だわ) 少しうつむきながら、膝の上に置いた本を熱心に読んでいる横顔は、たしかに一年前と変わらない。ほんの少し前髪が伸びたようだが、それが一年という――正確には九か月だが――時の流れを感じさせる。 雪の精霊がその青年を知ったのは、ちょうど一年前の冬のはじめだった。 道行く人の誰もが「寒い寒い」と足早に過ぎ去っていく中で、ひとり彼だけは公園のベンチに座り、冬の空を眺めていた。その澄んだ瞳が印象的で、雪の精霊はついその青年に目を留めたのだった。 次の日も青年は公園にやって来た。前日と同じようにベンチに座り、しばらく空を眺めた後、おもむろに本を読み始めた。 青年はよほど読書に集中しているのか、まったく動こうとしない。顔すら上げない。青年の目の前を、何人もの人間が行ったり来たりする。 (寒くないのかしら?) 雪の精霊は不思議に思いながら、熱心に青年を見つめていた。 それが始まりだった。 [次へ] [戻る] |