万華鏡
F
その清吉が、何を思って人間である彼とこうして付き合っているのか、本当のところは白妙にも分からない。が、少なくとも彼に対して害意を持っているわけではないだろう。
単なる気まぐれか、或いは――。
(清さんにとっては、辛い別れになるだろうよ)
置いて行く者と置いて行かれる者、そのどちらの悲しみがより深いのだろうか。
そしてそれを知った時、目の前のこの優しい人間はどう思うのだろう。
(あんまり悲しんで欲しくないねぇ)
秋の夕日を浴びて、きらきらと光る山々を指差し、子供のように無邪気にはしゃぐ彼の顔を見つめながら、白妙はそっと呟いた。
「ん?何か言ったかい?」
不思議そうに白妙を振り返る。
そんな彼のことを、白妙は心底愛しいと思った。
「いいえ、何も」
「そうかい?」
「ささ、先生、もう一杯飲みましょう」
「ああ、今度は僕が注いであげるよ」
「あら、じゃあ遠慮なく」
二人で杯を傾けながら、錦に染まる景色を見渡す。夕焼けが、山と空と、二人のいる小さな庭を照らし出す。
「綺麗だね」
「綺麗ですね」
思わず手を止めて、その光景に見入った。
「綺麗で華やかで、でも何となく物寂しくて。まるでしばしの別れを惜しむための宴のようだ」
穏やかに微笑む彼の言葉に、
「そうですね」
白妙もしみじみ頷いた。
時は止まることなく、今見ているこの眺めも二度と戻らない。
だからこそ、いつか来る別れの日よりも、今はこうして一緒にいられることを――錦の宴を共に楽しもうと思いながら。
間もなく冬の訪れだ。
《終わり》
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!