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万華鏡
A
 「冬になると寒いし、獲物だって少なくなるだろう?冬の間はどうやって生活しているんだい?」
 「ああ、それなら」
 ようやく合点がいったとばかりに頷きながら、今度は清吉が口を開く。
 「別に普段と変わりませんよ。いつもと同じように、それなりに過ごしております」
 「それなりに?」
 「ええ」
 愛想良く笑う清吉は、これまた相手が女性だったらころりと惚れてしまうに違いない二枚目役者のような男前ぶりだ。ひょっとしたらそれ以上かもしれない。
 (いったい妖(あやかし)と言うものは、皆が皆、白妙や清吉のように見目麗しいものなのだろうか?)
 などと見当はずれな事を考えながら、彼は二人に更に尋ねた。
 「よかったらこの家に来ないかい?」
 「えっ?」
 これには二人とも異口同音に驚きの声を上げる。
 突拍子もない申し入れに困惑する二人に、彼は人懐こい笑顔を向けると、
 「ここだったら暖かいし、食べ物だってたくさんある。きっと過ごしやすいに違いないよ」
 子供のように無邪気に言った。
 そんな彼のことを、二人はますます驚いたように見つめ、清吉は些か戸惑ったような、そして白妙はどこか寂しそうな表情を浮かべた。

 しばらくの間言葉を失くしていた二人だったが、やがて清吉がゆっくりと彼の方へ向き直った。
 「お申し出は有り難いんですけどね、先生」
 そう言いながら清吉はすうっと目を細めた。
 そうすると、いつもは黒くて丸い清吉の瞳が、糸のように細くなり、秋の光を溶かしたような琥珀色に輝く。
 彼と話をしていると、清吉は時折こんな表情を見せるのだが、それが何故なのかはよく分からない。
 「アタシたち狐はお山と一緒に暮らす生き物ですからね。狐がお山を離れたら、狐じゃなくなっちまいますよ」
 先刻のように惚れ惚れとするような笑顔を浮かべる清吉だったが、先程とは微妙に雰囲気が違っていた。
 (おや?)
 その違いを彼はすぐに感じ取った。

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