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万華鏡
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■錦の宴■



 『錦秋』とはよく言ったものだ。
 色とりどりの衣を纏った山々は、十一月に入ると日に日に鮮やかに濃くその色を増していく。その様子はまさに『錦の秋』と呼ぶにふさわしく、灰色の冬枯れを目前に、山々の、木々の、そしてそれらに守られて暮らしている様々な生き物たちにとっての束の間の宴のようにも思える。
 こうして美しい紅葉を眺められるのも、いったいあとどれくらいだろうか。
 その後に待っているのは、師走の慌しさと厳しい冬の寒さ。生き物たちの多くが鳴りを潜め、またあるものは長い眠りに就く。
 しかし彼は冬が嫌いではなかった。むしろ冬の持つ独特の静寂やぴんと張り詰めるような澄んだ空気が、彼にはとても好ましいものに感じられた。

 (そう言えば)
 ふと思い立って、両脇にいる者たちを見つめる。
 彼を真ん中に挟むように縁側に座っているのは二人の若い男女。二人とも大層綺麗な顔貌をしている。
 だが彼らは人間ではない。
 女の方は齢千年を超える猫又で、名前を白妙(しろたえ)と言う。男の方は清吉(せいきち)と言って、ここら辺りの里山に棲む狐たちを束ねる化け狐である。
 そんな人あらざるものである二人が、何故ただの人間である彼と一緒にこうしてのんびりと紅葉など眺めているのか――それはまあ、この際それほど重要ではない。彼らとの馴れ初めそのものが単なる偶然、或いは白妙と清吉の気まぐれと言ってしまえば、それまでの縁である。

 彼の視線に気づいて、どことなく似通った白い顔をほころばせる二人に、彼は尋ねた。
 「お前たち、冬はどうしているんだい?」
 この質問に、二人は一寸お互いの顔を見合わせる。
 「どう、って?」
 白妙が小首を傾げる。何気ない仕草の一つさえ艶っぽく、彼女の正体を知らなければ何とも魅力的に映ることだろう。
 もっとも朴念仁の彼には通用しないかもしれないが。

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あきゅろす。
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