万華鏡
G
そこに居たのは一匹の猫だった。
ところどころ薄汚れ、埃や蜘蛛の巣にまみれているが、何とも美しい真っ白な猫。白猫の口元で何かが揺れているのが見える。
白猫はゆっくり彼に近付くと、彼の足元にその何かを置いた。
「これ――」
それは黒くて大きな鼠の死骸。おそらく、彼の家に棲みついていた鼠一家の親分だろう。
「お前が退治してくれたのかい?」
「ニャアァーン」
白猫は得意そうに一声鳴くと、優雅に体を反転させて庭に下りた。
そのまま何事もなかったように去って行こうとする。
「おい、お前」
彼が声をかけると、白猫は音もなく立ち止まった。
そのしなやかな後ろ姿を惚れ惚れと見つめながら、彼は白猫に笑顔を向けた。
「ありがとう。助かったよ」
すると、白猫は一寸だけ振り返り、
「いいえ。ほんのお礼ですから」
艶やかな声でそう言った。そして、呆気に取られている彼を残し、夜の闇にするりと消えてしまった。
彼はしばらく縁側に佇んでいた。
白猫の姿は疾うにない。
彼はおもむろに空を見上げ、今日は天の川が綺麗に見えるな、などとひとしきり感心してから、
「今度はあの空き家に魚でも持って行くか」
ぽつりとそんなことを呟いた。
《終わり》
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