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万華鏡
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花言葉@たんぽぽ
蒲 公 英




 やわらかな緑の中に鮮やかな黄色が点在している。
 若葉をさわさわと揺らす風と、それに重なるように響く笑い声。笑うたびに、小さな頭にのせた黄色い花冠が揺れる。
 これが私の中の春の風景だ。

 笑っているのは子供の頃の私。それから近所に住んでいた同い年の女の子。たしか名前は「みっちゃん」。本名は覚えていない。
 みっちゃんとは毎日のように遊んでいたというのに、我ながらずいぶん薄情なものだ。
 だがそれも仕方ないのだろう。
 言い訳のように聞こえるかもしれないが、みっちゃんと私は通っていた幼稚園も、その後上がった小学校も別々だった。
 庶民暮らしの私とは違い、みっちゃんはお嬢様だった。みっちゃんの家の大きさと豪華さは町内でも異彩を放っていたし、みっちゃんは幼稚園も小学校も私立の、いわゆるお金持ち学校に通っていた。
 いつも同じようなTシャツとズボン姿で、友達とふざけながら集団登下校している私から見れば、きっちりと折り目のついた濃紺の制服に身を包み、お母さんの運転する高級車で送り迎えされているみっちゃんは、どこか別世界の人のようだった。

 みっちゃんと私の唯一の接点は家が近所だったってこと。それ以外は何もない。
 幼なじみとはいえ何とも頼りない繋がりだ。
 その証拠に、幼稚園の頃はまだしも小学校に入って数年もすると、みっちゃんより同級生の友達といるほうが多くなったし楽しかった。共通の話題、共通の遊び。何より共有できる感覚があるかないかというのは大きかった。
 自然とみっちゃんとの距離は遠くなった。
 実を言えば、「遊ぼう」と誘いに来たみっちゃんに対して、何度か居留守を使ったこともあったのだ。
 当時の私には、それが特別悪いことだとは思わなかった。仲良しの同級生たちを優先させるほうが当然だと思っていた。

 そんなことが続いて、みっちゃんと私はすっかり交流をなくした。
 遊ぶことはおろか道で会っても話すこともなくなって、せいぜい朝早くお母さんの運転する車の助手席に乗っているみっちゃんを見かけるくらいだった。
 薄く色のついた窓ガラスから覗く無表情な横顔。それは、小さい頃に私が見慣れていたみっちゃんの無邪気な笑顔とは、およそ遠くかけ離れていた。
 私はますますみっちゃんと自分との隔たりを感じた。

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