万華鏡
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それから数年ほど過ぎた頃だろうか。
私の初恋の相談相手になってくれた件の彼とは、卒業後も親しい付き合いが続いていた。その彼が、私に思いがけない話を持ち込んだのである。
「いやぁ、困ったことになったよ」
久しぶりに会うなり、彼はそう言って顔を顰めた。
「いったい今度はどうしたんだい?」
彼が困っているのは毎度のことだったので、私は軽く受け流した。しかしそんなことでくじける彼じゃない。
「実は、父が縁談話をもってきたんだ」
「へぇ」
「お前のようにふらふらしている奴は、さっさと結婚でもして落ち着け、とこうさ。ひどいだろう?」
大げさにため息を吐き出す友人に、私はつい苦笑してしまう。
「いいじゃないか。自分の家庭を持つのは決して悪いことじゃない」
「まったく。他人事だと思って」
「で。相手はどんな人なんだい?」
私が尋ねると、彼は指先で煙草を弄びながら、興味なさそうに話し出した。
「僕の父の知り合いの娘さんでね。ほら、桜並木で有名な坂道があるだろう。あそこを上ったところにある女学校を卒業して、今は花嫁修業をしているそうだ」
「ふうん」
相槌を打つ私の脳裏に、彼女の姿が鮮やかに浮かび上がっていた。
そう言えば、あの少女は今頃どうしているのだろう。
「それなりに可愛い子だし、結婚相手としては悪くないと思うんだけど、いかんせん僕はまだまだ結婚する気になんてなれないからね」
「まあ、君はそうだろうね。……って、なんだ、相手の女性に会ったことがあるのかい?」
驚く私に、彼は笑いながら言う。
「彼女の父上と僕の父は、仕事の関係で近年とても親しくしていてね。半年ほど前に彼女の姉上が結婚したんだが、そのお祝いの席に僕も父と一緒に招かれたのさ」
「なるほど」
「ああ、うまい具合にその時の写真を持っているから見せようか?」
彼はそう言って、私の返事も聞かずにポケットから一枚の白黒写真を取り出した。中央に袴姿の花婿と綿帽子をかぶった花嫁が並び、その周りにたくさんの出席者が立っていた。
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