万華鏡
sideーB)A
そんなことが一年くらい続いただろうか。
私はとうとうある友人に相談してみることにした。
彼は校内でも有名な洒落者で、女友達なども多数いたから、きっと良いアドバイスをくれるに違いないと思ったのだ。
私は彼のもとを訪ね、かくかくしかじかと説明してみせた。
彼は、私の話を聞き終えた途端ニヤリと笑い、何でもないことのようにこう言った。
「それは、君、その女学生に恋をしているからだよ」
「恋?僕が?あの子に?」
「そうさ。僕の経験上、それは完全な恋わずらいの症状だね」
恥ずかしい話だが、彼に指摘されて、初めて私は自分の胸の中にある想いに気がついた。
「恋……。なるほどそうか、このモヤモヤした感じはそれが原因だったのか」
「ああ。君も男なら、正々堂々と相手に想いを伝えたまえ」
「でも、いったいどうやって?」
「さあ。それは自分で考えるんだな」
友人の言葉に、私は思わず首を捻った。
季節は春真っ盛り。舞い散る花びらの中、夢見るように瞳を輝かせて、彼女が坂道を上ってくる。
私はいつもの反対側――つまり彼女が通っている側の道端に佇んで、彼女が上ってくるのを待っていた。
やがて彼女が私の前にやって来る。彼女と二人の友達は、私に気がつくと、私より数メートルほど離れた場所で驚いたように足を止めた。
「あの……」
私はまっすぐに彼女を見つめた。
彼女の透き通った黒い瞳と目があった途端、私の胸は早鐘のように鳴り出した。
「おはようございます」
胸の中の動揺を抑えつつ、私はそう彼女に挨拶した。我ながらもっと気のきいた台詞が言えないものかと思ったが、とりあえずよしとしよう。
彼女はよほどびっくりしたのだろう。目を見開いたまま微動だにしない。まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、ただじっと私を見ている。
そんな彼女の様子が存外に愛らしく、そう思うのもまた恋ゆえなのかと思いながら、私は手に持っていたものをゆっくりと彼女に差し出した。
「え?」
それは、桜色をした一通の手紙だった。
彼女は呆然としたまま私と手紙を見比べている。
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