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万華鏡
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 次の瞬間、両脇から甲高い悲鳴が上がった。
 「なんて素敵なの!」
 「ね、ね、いったい何てお返事するの?」
 友達の言葉に、私はきょとんとしてしまった。
 「返事?」
 「そうよ。こんな素敵な恋文をもらったんだもの」
 「彼、きっとあなたからの返事を待っているわよ」
 「そんな……」
 返事なんてとんでもない。
 私は顔を真っ赤にしながら、首を激しく左右に振った。
 「駄目。そんなの恥ずかしくてとても出来ないわ」
 必死になってそう言うと、それまで騒いでいた友達の声がピタリと止んだ。
 「こんなものもらってしまって、私いったいどうしたらいいのかしら?ああ、どうしよう。もう彼と顔を合わせるのさえ恥ずかしい」
 私は泣きそうになりながら、両手で自分の頬を押さえた。全身の血が顔中に集まってしまったのかというくらい、私の頬はひどく火照っていた。
 「どうしよう。とてもじゃないけど、返事なんか出来ないわ」
 「……」
 「私、いったいどうしたらいいの?」
 途方に暮れる私に、二人の友達は顔を見合わせると、困ったように笑みを浮かべた。
 それから、二人して私の肩に手を回すと、まるであやすように私の背中を撫でてくれた。

 結局、私は何の返事も出来ないまま、ただ時間だけが過ぎて行った。

 桜並木を挟んで、こちら側とあちら側。以前と何ひとつ変わることなく、私たちは無言ですれ違っていく。
 時々、彼が何かを言いたそうにこちらを見ている事もあったが、私は恥ずかしさのあまり友達の影に隠れてしまい、彼が通り過ぎるまで顔を上げることが出来なかった。
 そんな態度を取ってしまって申し訳ないとも思ったけれど、当時の私はただ恥ずかしさばかりが先行していて、彼の気持ちに応える勇気はなかった。
 そうこうしているうちに年が明け、またしても桜の季節がやって来た。
 しかしもう桜並木の向こうに彼の姿はなかった。
 彼は学校を卒業し、もうこの桜並木の坂道を通る必要がなくなったらしかった。

 道の向こうに彼の姿が見えなくなって、私ははげしく後悔した。
 彼がこの桜の向こうにいるうちにちゃんと伝えれば良かった。
 「私もあなたが好きです」と――。
 


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