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万華鏡
D
 (可愛いなあ)
 仔猫たちを驚かさないようにある程度の距離を置いて見ていたのだが、そのうちに妙なことに気がついた。
 折り重なるようにして身を寄せ合っている仔猫たちの毛皮がしっとりと濡れているのである。よく見れば、その周囲の床もだいぶ湿り気を帯びている。
 彼は天井を見上げた。
 古く煤けた梁があって、その付近から大きな雨粒が落ちてくるのが見えた。
 「雨漏りか」
 呟いて、彼は踵を返した。
 入り口に立てかけてあった傘を手に取ると、そっと開き、それを手に仔猫たちのもとへ戻る。
 いくら春の雨とはいえ、生まれたばかりの小さな体には相当こたえるに違いない。風邪など引いたら大変だ。
 「さあ、これで濡れないですむよ」
 身を乗り出して傘を差しかけてやると、仔猫の一匹がミイミイと甘えるように顔を上げた。桃色に染まった鼻先が何とも言えず愛らしい。
 「ひい、ふう、みい…」
 仔猫の数を数えてみると、全部で四匹。ここに母猫が加わったら、とても傘ひとつでは足りないだろう。
 彼はそう思い、空き家を出ると駆け足で自宅へと向かった。

 「あら、先生。おかえりなさい」
 そう声をかけてきたお手伝いの山村雪枝(やまむらゆきえ)に、
 「うん。でもまたすぐに出かけます」
 慌てた様子で返事をすると、玄関の傘立てにあった数本の傘を掴んだ。ついでに、押し入れから普段は使っていない布団を一枚取り出す。念入りに畳んで、ビニール袋にしまいこむと、言葉の通りそそくさと出かけて行ってしまった。
 「どうしたのかしら、あんなに慌てて」
 珍しい出来事に、雪枝は不思議そうに彼の後ろ姿を見送った。

 例の空き家に舞い戻った彼は、四つ折りにした布団を床に敷くと、その周りに開いた傘を並べた。
 「うん、完璧だな」
 そして、仔猫たちを一匹ずつ丁寧にその布団の上に運んでやった。
 「よしよし。これで少しは良くなっただろう?」
 「ミィー」
 彼が訊くと、仔猫たちは嬉しそうに甲高い鳴き声を上げた。

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