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万華鏡
A
 特に相手の女性――柚木楓(ゆずきかえで)嬢は、今日びの日本ではまだまだ珍しい新しい感覚を持つ女性だった。親や夫となる男性を頼るのではなく、自分の人生は自分で切り拓いていくようなバイタリティに富んだ人だ。
 学生時代はパリへの留学経験もあり、今も父と兄が経営する会社を援けるために、一年のうち数か月ほどを海外で過ごしている。田舎でのんびりと暮らす彼などより、よほど慌しい日々を送っているのだが、それでも彼が送る手紙に対して、いつも細やかで心のこもった返事を書いて寄越してくれる。
 そんな彼女のことが、彼はとても好きだった。

 「また何かおもしろいことがあったら、楓さんに報告の手紙を書こうかな」
 そう言って、彼がもう一度視線を川のほうへ向けた時である。
 「あれ?」
 何か白いふわふわとしたものが、彼の鼻先をかすめて行った。
 「……雪?」
 思わずその中のひとひらを手で掴むと、予想に反して、その白いものは彼の手の中でしっかりと形を保っていた。
 ちょうどたんぽぽの綿毛のような、でももっと白くて密度のあるもの。
 「何だろう?」
 得体の知れない白いものを手にしたまま、彼は立ち止まり首を傾げた。するとそんな彼へ声をかけてきた者があった。
 「それは『柳絮(りゅうじょ)』というのですよ」
 見ると、近くにある柳の木の下に、いつの間にか背の高い白髪の人物が立っていた。彼はのんびりとその人物に近付いた。

 「柳絮、というと、柳の種のことですよね?」
 そう尋ねながら、彼はかすかに目を見張った。
 白髪のため相手はてっきり老人だと思っていたが、近くに寄って見るとまだずいぶん若く、彼ともそう年が離れていそうにない。それに美貌と呼ぶにふさわしい整った顔だちをしている。
 驚きを隠せない彼の様子に、白髪の人物はくすりと笑いを洩らしながら、川沿いに植えられた柳の木々を指さした。白くしなやかな指先が、どこか柳の枝を思わせる。

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