万華鏡
A
特に相手の女性――柚木楓(ゆずきかえで)嬢は、今日びの日本ではまだまだ珍しい新しい感覚を持つ女性だった。親や夫となる男性を頼るのではなく、自分の人生は自分で切り拓いていくようなバイタリティに富んだ人だ。
学生時代はパリへの留学経験もあり、今も父と兄が経営する会社を援けるために、一年のうち数か月ほどを海外で過ごしている。田舎でのんびりと暮らす彼などより、よほど慌しい日々を送っているのだが、それでも彼が送る手紙に対して、いつも細やかで心のこもった返事を書いて寄越してくれる。
そんな彼女のことが、彼はとても好きだった。