万華鏡
予感A
私は俯いたままあなたの横顔に問いかける。口には出さず、心の中で。
そして、やっぱり心の中で首を振る。
ううん、あなたはそんなこと思っていない。もしかしたら、あなたもこのゆっくりと流れる時間を楽しんでいるのかも知れない。
だって、あなたの横顔も瞳も、とても優しくてとても綺麗。
ねえ。
こんな穏やかな始まりもあるのでしょうか。
私にとって、恋というものはいつも厄介だったわ。
突然やって来て、ものすごい勢いで渦を巻いて、まるで嵐のように騒々しく過ぎ去っていく。そんなものだった。
だから、いつの間にか恋に臆病になってしまったのかもしれない。ほんの些細な事に振り回される自分が嫌で、心がざわざわと落ち着かなくなるのが嫌で。恋に恋して、勝手に自分の中で完結して。
そういうのにうんざりしてた。自分が自分じゃなくなるような気がして怖かったの、きっと。
自分でも気がつかなかった。
あなたに出会うまでは………。
私は水滴のついたグラスを指先でそっと撫でる。
あなたは海を見つめる。あいかわらず横顔は静かなまま。
二人の間に並んだソーダ水の中を、水玉色の時間が行ったり来たり。
ふたつの時間は、いつか交わって溶け合って、やがてあの広い海へと辿り着くだろうか。
―――分からない。
―――だけど。そうなれたらいいね。
ねえ。
こんな穏やかな恋の始まりもあるのでしょうか。
私、これからゆっくりと、あなたを好きになってもいいですか?
《終わり》
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