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旅人シリーズ
  〃  B
 あまりのことに僕が黙っていると、『緑の王』は顔を歪めながらエレナのいる水晶の柱に近付いた。
 愛しそうにエレナの顔を見つめた後、深い吐息とともに吐き出すように『緑の王』は言った。
 「馬鹿な子だ。こんな男の身代わりになるなんて……」
 「身代わりだって?」
 僕は驚いて声を上げた。
 それじゃ、エレナは僕を庇って、僕の代わりに『永劫の果て』とやらに行ってしまったというのか。

 「……違う」
 僕は呆然と呟いた。
 顔を上げると目の前には眠るエレナの姿がある。
 そうだ。エレナはこうしてここにいるじゃないか。
 「違う。エレナはここにいる。ただ眠っているだけだ」
 僕が言うと、
 「ああ、そうだ」
 『緑の王』が重い口調でそう言う。
 「エレナは眠っているだけだ。だが二度と目覚めることはない」
 「どうして――っ?!」
 嘘だ。そんなの嘘だ。
 だってここにいるじゃないか。今にも起き出しそうなおだやかな顔で、こうして手を伸ばせば抱き締められそうなほど近くに。
 「エレナ」
 名前を呼んで、エレナの頬に触れようとする。
 だが、僕の指先が触れることが出来たのは、氷のように冷たい水晶の柱だった。

 僕はただただ呆然とする。
 うまく頭が回らない。思考が心に追いつかない。
 「エレナに我々の声は届かない」
 先ほど同じ言葉を『緑の王』は繰り返した。
 「エレナは人間ではない。永遠の命を持つ精霊族だ。だから『時の石』の魔法も完全には効かなかった」
 「……」
 「エレナの体は残った。だがエレナの心は『時の石』がどこかへ連れ去ってしまった。――これは、私への罰だ。命を守るべき立場でありながらお前を『永劫の果て』へ追いやろうとした。そんな私への罰なのだ、きっと」
 そう言って、『緑の王』は片手で自分の顔を覆った。


 何てことだろう。
 エレナ。僕と出会ったせいで、君をこんな目に遭わせてしまった。
 僕が君を好きにならなければ、こんなことにはならなったのだろうか。


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あきゅろす。
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