旅人シリーズ
〃 A
「『時の石』?魔法?」
いったい何を言っているんだ。
僕は訝しそうに彼を見つめた。
彼は視線をエレナの美しい寝顔に向けたまま、僕に言った。
「私はエレナの父、この森を支配する『緑の王』だ」
「え――?」
僕は自分の耳を疑った。
そんな馬鹿な。『緑の王』だなんて。きっと何かの冗談だ。
そう思う僕の思いが顔に表れたのだろうか。『緑の王』はその口元を皮肉っぽく歪めると、見下すような視線を僕に浴びせた。
「信じられないか。……まったく、お前たち人間というのは、自分たちの目に見えるものしか見ようとしない。自分たちに都合のいいものしか信じようとしない」
吐き捨てるように言われて、僕は少しばかりムッとした。
「そんなことはありません」
きっぱり言い返すが、『緑の王』は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
そのまま僕の意見など関係ないと言うように話を続ける。
「エレナは私の娘、この森の精霊。私たちは永遠の命を持つ種族だ。短い時を生き急ぐお前たちと一緒に生きていくことは出来ない」
「そんなこと――」
僕は『緑の王』の言葉を否定しようとした。
だが『緑の王』はそんな僕の言葉を見透かしたように、深い緑色の瞳で僕を見据えながらさらに言う。
「それなのにエレナは、お前と共にいきたいと望んだ。この森を出て、永遠の命を捨てて、お前と共に生きようとした」
「だからエレナをこんな所へ閉じ込めたのか?あなたは大切な娘をこんな目に遭わせてまで、僕に渡したくなかったと言うんですか?」
厳しい声で僕が問うと、『緑の王』は憐れむような目を僕に向けた。
「違う。私が『時の石』の魔法をかけたのはお前のほうだ」
「え?」
「私は『緑の王』、この森に生きるすべての命を守るべき王。その私が、たとえ愚かな人間のものとはいえ生き物の命を奪うわけにはいかない。だから私は『時の石』を使って、お前を『永劫の果て』へやってしまおうと思ったのだ。エレナの手の届かない時の彼方へ、お前を飛ばしてしまおうと思った」
「……」
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