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旅人シリーズ
《後編》@

旅人シリーズZ

時の石
《後編》





 ああ。誰かが泣いている。
 ぼんやりとした意識の中で、僕はそう感じた。
 僕は気を失っていたのだろうか。ひどく頭が重い。目蓋を開けても、何だか視界がぼんやりしている。
 (泣いているのは誰?)
 僕はのろのろと首を動かして、その姿を探した。
 すると深緑色のローブを着た人物がこちらに背を向けて立っているのが見えた。後ろ姿なので顔は見えないが、ずいぶん立派な人物に思える。
 僕はその人に声をかけた。
 「あなたは誰ですか?」
 その人はゆっくりと振り返った。
 「目が覚めたか」
 深い緑色の瞳でじっと僕を見つめてくる。まるで何もかもを見透かされてしまいそうに思えて、僕は思わず俯いた。

 そんな僕をしげしげと眺めながら、目の前の人物は大きなため息をついた。
 「私には理解出来ん。お前のようなただの人間に、永遠の命を捨てるほどの価値があるというのか……」
 「え?」
 僕は驚いて顔を上げる。
 するとその人物の背後に大きな水晶の塊が見えた。
 ずいぶん大きな塊だ。いや、塊というより柱と言ったほうがいいだろうか。
 「……」
 僕が呆けた顔で水晶の柱を見上げていると、その人物がすいと体を横に動かした。それなので僕は真正面からその水晶の柱を眺めることになった。
 「――エレナ?!」
 巨大な水晶の柱の中にいるのは間違いなくエレナだった。

 僕は慌てて水晶に駆け寄ると、その表面にそっと手を触れた。
 「エレナ」
 呼びかけても彼女は何の反応も示さない。
 彼女は立ったままの姿勢で堅く目を閉じ、あの澄んだ緑色の瞳が僕に向けられることはなかった。
 「エレナ?どうして君が――?」
 言葉を失う僕の傍らで、僕と同じようにエレナを見つめながら、深緑色のローブを身に纏った人物が静かに口を開く。
 「エレナは『時の石』の魔法で深い眠りに就いている。我々の声は届かない」

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