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旅人シリーズ
  〃  E
 「どうしてここへ来たの?」
 出会うなり、エレナはそう僕に尋ねた。
 僕は森を歩くうちについ珍しい植物や可愛い動物たちに夢中になって、すっかり道に迷ってしまったことを彼女に話した。
 彼女はかすかに相槌を打ちながら、僕の話を聞き終わると困ったようにため息をついた。
 「分かったわ。あなたは外国の人で、この土地のルールを知らない。それなら今回だけは大目に見てあげる。きっとお父さまも許してくださるでしょう」
 彼女の言葉に僕は首を傾げた。
 どういうことだろう?僕は誰かの私有地にでも入り込んでしまったのだろうか?
 「とにかく森を出ましょう。出口まで私が案内してあげるわ」
 そう言って、彼女は僕の手を握ってきた。
 やわらかくて優しげな手だった。

 そう。彼女を一目見た時から僕は恋に落ちたのだ。
 そして信じられないことに、それは僕だけではなかった。
 エレナもまた僕に好意を抱いてくれた。

 僕たちはいつも森の入り口で待ち合わせた。
 何度か街へ出ようとも誘ったが、何故か彼女は頑なに森の外へ出ることを拒んだ。
 「私はここを離れられない。よければあなたがここに会いに来て」
 彼女に言われて、僕は毎日のように森を訪ねた。
 森の中を歩きながら、ただとりとめのないことを話すだけ。
 それでも彼女と過ごす時間はとても楽しく有意義で、彼女の笑顔はいつも僕の心を明るく照らした。彼女の緑色の瞳を見つめるたび、僕は魔法にでもかかったかのようにどんどん彼女を好きになった。
 僕たちは一緒に過ごせば過ごすほどお互いに惹かれていった。
 そして、僕の帰国が迫る頃にはすっかり離れられなくなっていた。

 「エレナ、僕と一緒に来てくれないか?」
 僕は彼女にそう申し出た。
 彼女は嬉しそうに瞳を潤ませながら、しかし次の瞬間には悲しげにその瞳を曇らせた。
 「ごめんなさい。私はあなたと一緒には行けないの」
 「どうして?僕のことが嫌い?」
 「いいえ」
 彼女は首を振る。
 「あなたのことは大好きよ。でも駄目なの。私はここを離れるわけには行かない」
 いつかと同じ台詞を彼女は言う。

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