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旅人シリーズ
  〃  D
 「私が封じたお前の記憶だ。お前はそれをずっと探していたのだろう?」
 彼の質問に、僕は少しだけ首を傾げる。
 そう。確かに彼の言うとおりだ。
 だけど、僕が本当に探していたものは――。

 「さあ、目を閉じろ」
 迷う僕に『緑の王』は言う。
 僕は自分の心の深遠を探るのをやめ、言われたまま目を閉じた。
 彼の指先がそっと僕の目蓋に触れる。
 ――熱い。
 そう思った瞬間、僕はむせ返るような緑の中へ意識を飛ばしていた。





 エレナと僕が出会ったのは偶然だった。
 大学院の卒業記念の旅行に一人でヨーロッパを訪れていた僕は、とある国でとても美しい風景に出会った。
 そこは太古から続くといわれる広大な森で、地元の人たちはそこに『緑の王』が棲んでいるのだと言っていた。
 「『緑の王』?何ですか、それは?」
 僕が尋ねると、
 「この広大な森を支配する精霊たちの王様さ。この森に暮らすものは、動物も植物も、水や土でさえも、すべて『緑の王』の絶大な力に守られているんだそうだ。『緑の王』がいる限り、この土地から緑が消えることはない。彼は森の命そのものなんだ。昔々からこの地方に伝わる伝説さ」
 「へえ」
 僕は伝説や神話といった類のものを無条件に信じるほうではなかったが、決して嫌いではなかった。
 「森の中へ行ってみるかね?」
 「ええ。せっかくだから『緑の王』の美しい庭を拝見させていただきます」
 「ああ、そうするといいよ。ただあまり奥までは行かないほうがいい。森の一番奥は『緑の王』の棲み処だからね。我々人間がむやみに立ち入ってはいけないと昔から言われているんだ」
 「分かりました」
 宿の人とそんな会話を交わして、僕は好奇心いっぱいで森の中へ出かけていった。
 それが悲劇を招くことになろうとは少しも思わずに。

 地元の人の忠告を無視したわけではないが、結果的に僕は森の奥へと足を踏み入れてしまった。
 そして、そこでエレナと出会ったのだ。


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あきゅろす。
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