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旅人シリーズ
《前編》@

旅人シリーズY

人魚の島
《前編》






 その島のことを、人々は『人魚の島』と呼んでいた。
 正式な名称はほかにあるのだが、誰もその覚えづらい名前で呼ぶようなことはしない。
 古い人間などは特にその色合いが強く、逆に正式名で呼ぶことのほうを嫌っていた。
 『人魚の島』――そう言えば、誰もがその島のことだと分かった。

 湿気の多い北の森の国を離れ、僕が一路南を目指したのは、半月ほど前のことだった。
 飛行機に乗る前に、北国の空港で親友に宛てた手紙を出し、これから行く先がどこなのかを知らせておいた。ついでに、そこは交通の便が悪いので、しばらく連絡が取れそうにないことも書いておく。
 さすがに電話くらいは通じるだろうが、緊急の場合以外は使わない。
 これはいつも僕が旅に出る時の決まり事みたいなものなので、わざわざ手紙などに書く必要もないとは思ったが、今思えば、初めて訪れる南の孤島に少し緊張していたのかもしれない。
 これからいつもとは趣の違う旅が始まると思うと、ついそんな手紙を出してしまったのだ。
 珍しく真面目な内容の手紙を受け取って、今ごろ奴はどんな顔をしているだろう?何か悪いものでも食ったのかと、僕の愛猫リデルと苦笑いしているだろうか。

 そんなことを考えつつ、僕は目の前に広がる海をぼんやりと眺める。
 黄昏に染まる海は綺麗だけどどこか物悲しさを漂わせ、見る人の心を締め付ける。
 (そんな風に思うのは、この島に伝わる伝説のせいかも知れないな)
 柄にもなく感傷的になりがちな心境を、僕はそう納得させた。

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