旅人シリーズ
《後編》@
旅人シリーズY
人魚の島
《後編》
「ディーナがおかしくなったのは、半年くらい前からなんだ」
砂浜に座り、はるか遠くへ続く海を見つめながら、彼は静かに語り出した。
「それまでのディーナは、めちゃくちゃ気の強いお転婆な娘でさ。両親や俺が手を焼くくらい毎日元気いっぱいに駆け回っていた。ところがある日、腕に妙な痣が出来てな。それ以来、急に大人しくなって、ああやって毎日海ばかり眺めているようになったんだ」
そこで、彼はちらりと岩場に座る少女を振り返る。
少女は相変わらずぼんやりと海を見つめていた。
ため息とともに視線を戻し、彼はまた話し出す。
「心配してわけを尋ねたら、『海が呼んでいる。私はもうすぐ海へ還らなきゃならない』なんて返事が返ってきてさ。最初はディーナの頭がおかしくなったんだと思ったよ」
彼は思い詰めたような顔で、じっと足元の波を見つめた。
「でも、違う。おかしくなったのはディーナだけじゃない。この島のみんなが変なんだ」
「変?」
「ああ。ディーナの言葉を聞いて、両親はディーナを島の長老の所へ連れて行った。そして帰ってくるなり、俺に『ディーナは海に選ばれた。だから諦めろ』なんて言ったんだ。ほかの奴らもだ。みんな、口を揃えたように『ディーナは海に選ばれたから、もう一緒にいられない』って」
「海に選ばれた?」
思わず僕が尋ねると、彼は苦々しい顔で頷いた。
「さっきあんたも言っていたこの島の伝説、あれには続きがあるんだよ」
彼の話に、僕はすっかり引き込まれていた。
この島に暮らす人々は、遠い昔、禁じられた恋をした若者と人魚の間に生まれた子供らの子孫だと伝えられている。
そして、この島の付近にしか生息しない細長い銀色の魚『銀水魚』。かれらもまた島の人たちと同じように、若者と人魚の間に生まれた魚の子孫だという。
人の姿と魚の姿、そして陸と海に分かれたものの、かれらはもともと血を分けた兄弟だった。
だから両者は共存しあい、長い間共にこの島で暮らしてきた。
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