旅人シリーズ
〃 F
僕の沈黙を何と取ったのか、彼は真剣な顔で思いがけないことを言い出した。
「俺はディーナと二人でこの島を出たいんだ」
「え?」
いきなりそんなことを言われて、僕は驚いて彼を見た。
彼の黒い瞳は切羽詰ったように揺れていた。
「どこだっていい、ここから遠い場所なら。とにかくこの島を出られさえすれば」
「どうして?」
お節介だとは思いつつも、つい僕は彼に訊いてしまう。
「この島はとても良い所だと思うよ。僕はこう見えてもあちこちを旅しているから分かるけど、どこへ行ってもそれほど代わり映えはしないものさ。外の世界なんて、君たちが思うほどいいものじゃない」
初対面の人間にこんなことを話すなんて、まったく僕らしくない。
だけど彼の尋常じゃない様子に、僕は少し心配になったのだ。
そう。彼から感じるのは、若者が外の世界に憧れるなんていう明るいものじゃなくて、まるで何かに怯えるような、ひどく暗い感情だったのだ。
彼はいったいこの島の何に怯えているのだろう?
やがて彼はしぼり出すような声でこう言った。
「いいんだよ、どこだって。この島から――この海からディーナを引き離すことさえ出来れば、それでいいんだ」
僕の中で警鐘が鳴る。
これ以上彼らに関わってはいけないと、僕の胸の奥でそう告げる声がする。
だけど僕はそれらを振り切って、またしても僕らしくない行動を取ることにした。
「よかったら話してくれないかな?どうして君は、妹さんをこの島から連れ出したがっているんだい?」
ああ、本当にいつもの自分らしくない。
こんな風に、親しくもない他人の事情に首を突っ込むなんて。
僕は心の中でそっと自分を罵った。
後編へ続く...
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