旅人シリーズ
〃 E
「タカシか。どこから来た?」
「日本からの旅行者だ」
「ニホン――たしか東のほうにある島国だったよな?」
そう問われて、僕は黙って頷く。
「同じ島国でも、こことはずいぶん違うんだろうな」
「そうだね。日本はここよりもっと大きいし、何と言うか……こんなに自然が豊かな所じゃないな」
「ふうん」
僕の説明に、彼は曖昧に頷いた。
それから少しの間だけ沈黙が流れた。
その沈黙に耐えかねて、僕は無理に笑顔をつくると、出来るだけ親しげな口調で彼に話しかけた。
「ここはとても良い島だね」
「そうか?」
「ああ。海も綺麗だし、人も優しいし。それに、素敵な伝説があるじゃないか」
僕がそう言った途端、彼の顔がかすかに歪んだ。
「素敵な伝説、か」
吐き捨てるように言った彼の様子を不思議に思いながら、それでも僕はさらに言葉を続ける。
「そうさ。『人魚の島』だなんて、この島にピッタリな呼び名と伝説だと思うよ。ええと、その、君も人魚の子孫ってことなんだろう?」
僕の質問に、彼は答えなかった。そのかわり別のことを話し出した。
「なあ、ニホンってどんな国だ?ずいぶん遠いのか?」
「そうだな。赤道を越えて、ここからずっと東へ向かって。船と飛行機を使っても十五時間以上はかかるよ」
「飛行機か。すごいな。俺もディーナも飛行機なんて見たこともないよ」
彼の言葉に、僕はつい納得してしまう。おそらくこの島の住民のほとんどは島の外へ出たことはないだろう。
観光地としてそれなりの人気がありながら、この島自体は驚くほど閉鎖的だ。外から来る者たちを拒んだりはしないのだが、自分たちが外へ出て行くことには異様なくらい抵抗があるらしい。
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