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旅人シリーズ
  〃  D
 僕はそっと二人を見つめた。
 何だか心臓を鷲づかみにされたような息苦しさを覚える。
 思わず手で胸を押さえながら後ずさると、踏みしめられた砂がかすかに音を立てて、結果的に彼らに僕の存在を告げることになってしまった。

 「あ――」
 彼は一瞬目を見開いた後、彼女から離れると、ばつが悪そうに乱暴に涙を拭った。それから少しぶっきらぼうな調子で、
 「なんだ、あんた。観光客か?」
 そう訊いてきた。
 「え、ええ、まあ」
 「ふうん」
 彼は目を細めると、何を思ったのか、いきなり岩場から飛び降りた。
 「危ない!」
 思わず僕が叫ぶと、得意そうな表情を浮かべながら、軽やかに砂の上に着地した。その鮮やかな身のこなしに思わず感心してしまう。

 呆気にとられていると、彼はいきなり僕の腕を掴んで歩き出した。
 「え?あの、ちょっと」
 わけが分からず、僕は引きずられるようにして彼の後についていく。
 そんな僕に、
 「悪いけど、ちょっとだけ付き合ってくれないか?」
 彼はそう言って、どこか悲しそうに笑った。


 僕が連れて行かれたのは、近くの入り江だった。
 振り返ると、先ほど彼らがいた岩場に、まだあの少女が一人で座っているのが見える。遠くてよくは分からないが、相変わらずぼんやりと海を眺めているようだった。
 そんな僕の視線を追って、彼も少女の姿を見つめた。
 そして何とも苦々しいため息を吐き出した。
 「あれはディーナ。俺の妹だ」
 「妹?」
 なんだ、てっきり恋人同士だと思っていたのだが、二人は兄妹だったのか。
 「俺はタオト」
 そう言われて、右手を差し出される。
 「僕は成宮高志(なるみやたかし)」
 少しためらいながら手を握り返すと、彼は白い歯を見せて笑った。

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あきゅろす。
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