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旅人シリーズ
  〃  B
 しばらく島に滞在して分かったのだが、この島の人たちは本当にあの銀色の魚を自分たちの兄弟だと信じているようだ。
 一度ふざけた観光客が、ホテルの人に「『銀水魚』というのを夕食に出してくれ」と言ったら本気で怒られていたのを見かけた。
 まあ、どこにでも似たような類の伝承はあるし、こういう昔の風習が守り伝えられていることはかえって喜ばしいことなのかもしれない。
 僕はそんな風に思いながら、さしてそのことを重大に受け止めてはいなかったのだ。

 そう。あの二人に出会うまでは。


 その日も僕は夕暮れ近くまで一人で海岸を散歩していた。
 足元に打ち寄せる波を掻き分けながら、ときどき珍しい貝殻などを拾っては、それを親友への土産にしてやろうなどと考えながら、のんびりと過ぎていく時間を満喫していたのだ。
 気のせいなどではなく、この島では時間がゆっくりと流れていく。
 最初はその速さというか遅さに違和感を覚えたりもしたが、島で三日も過ごすうちにはすっかり慣れっこになってしまった。

 (このままここにいたら、家に帰ってから、元の生活に戻るのに時間がかかりそうだな)
 そんなことを考えながら、果てしなく続く青碧色の海を眺める。目を凝らしてみても、この島以外の陸の影は見えない。
 この海の先に、先日僕が乗ってきた船のある大きな港や街や、はたまたあの北の森の国や僕の国があるだなんて、なんだか信じられないような気がする。
 同じ地球上でも、この島だけはどこか別の空間で、現実の僕らの世界とは隔絶されているような、そんな感じがするのだ。
 (帰りたくなくなってしまいそうだ……)
 僕が暢気にそんなことを考えていると、ふいに頭上から声が上がった。

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あきゅろす。
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