旅人シリーズ
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旅人シリーズW
夜の鳥
何とはなしに夜風の冷たさが恋しくなって、窓を開けようとした時だった。
突然、黒い小さな影がものすごい速さで飛んできたかと思うと、開きかけた窓の透き間からすっと部屋の中に入り込んできた。
「何だ、今の?」
一瞬の出来事に、慌てて後ろを振り返ると、ベッドの上にぽっこりと窪みが出来ていて、その中心に何かがうずくまっているのが見えた。
「……小鳥?」
近づいて見ると確かにそれは鳥だった。夜の色に似た薄藍色の羽のローラーカナリア。
「あれ?」
そこで僕は妙なことに気がつく。
たしかローラーカナリアという種類の鳥は夜行性ではなかったはずだ。夜目が利くはずがない。それなのに、どうしてこんな深夜に空を飛んでいたのだろうか。
それに、よく見ると小鳥は体のあちこちに傷を負っていた。出血はしていないようだが、ぐったりとして気を失っているらしい。
「大丈夫か、お前?」
心配になって手を差し出すと、キーキーという甲高い声が聞こえた。
どう考えても鳥の鳴き声ではないし、何よりも小鳥はすっかり意識を失くしている。だとしたらいったい何の声だろう。
僕は注意深く小鳥の体の下に手を差し入れ、その小さな体をゆっくりと持ち上げた。
すると、小鳥のくちばしから何かがぶら下がっているのが見えた。トカゲかカエルの干物のような、黒くひからびた妙なもの。
「何だ、これ?」
指先でつまんでみると、それがキーキーと鳴き出した。
先ほどの声の主はこの黒い干物のようなものらしい。
「これ、生き物なのか?」
思わずしげしげと観察してしまう。
そんな僕に向かって、その干物――によく似たもの――は相変わらずキーキーと喚いている。後ろ足の片方を鳥のくちばしがしっかりと咥えていて、どうにも身動きが取れないらしい。
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