旅人シリーズ
F
(まるで監視しているみたいだな)
そう思って、つい苦笑してしまう。
すると、それを不審がるように、小鳥が首を傾げながら僕の瞳を見つめてくる。
「ああ、何でもないよ」
笑いながらそう言うと、小鳥はまたも小さく首を傾げる。
その仕草はやはりとても愛らしい。昨晩感じた恐怖など嘘のように思えた。
「それより食事でもしようか。朝ご飯も食べずに出てきてしまったから、君もお腹が空いているだろう?」
「……」
小鳥は答えない。ただ夜色の瞳でじっとこちらを見つめている。
「ほら、ちょうど良い具合にサンドイッチを売っているお店がある。公園の中で、遅めの朝食といこうじゃないか」
すぐそばにある公園を指差し、軽い足取りで屋台の親父さんに近付いていった。
「ほら、お食べ」
パンを小さくちぎって差し出すと、小鳥は躊躇いがちに身を乗り出してそれを啄ばんだ。何度かそれを繰り返すうちに、少しずつ小鳥の警戒が解けていくのがわかった。どうやらやっと僕のことを信用してくれたらしい。
「君は随分と用心深いんだな」
そんなことを言いながら、自分もサンドイッチに噛りつく。
小鳥と一緒の思いがけず楽しい食事が終わり、自動販売機で買ったコーヒーをすすりながら、膝の上に乗っている小鳥の小さな頭をじっと見つめた。
(鳥って可愛いもんだな)
のんびりとそんなことを考える。
(このまま連れて帰りたいけれど、あいにく家にはリデルがいるしなぁ)
そう思う僕の脳裏に、アビシニアン猫の優雅な肢体が浮かぶ。
こうして旅行に出るたびに親友に預けている愛猫リデル。けれど彼女の存在があるからこそ、僕はいつでも安心して旅に出ることが出来るのだ。自分を待ってくれている存在があると思えばこそ、気ままな旅に興じることが出来る。
(さて、いったいどうしたものか)
そんなことを考えながら、僕は軽いため息をついた。
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