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旅人シリーズ
E
 そのまましばらく小鳥の体を撫でていたが、再び小鳥が眠りに就いたのを確認して、予備の掛け布団を持ってソファに移動し部屋の明かりを消した。
 「おやすみ」
 そう呟いた僕の耳に、
 「ルルル…」
 何とも言えないような綺麗な歌声が聞こえた気がした。
 
 翌日さっそく小鳥を動物病院へ連れて行った。
 「あちこち怪我しているようですが、どれも大した傷ではありませんね。もうほとんど治りかけています。念のため化膿止めの薬を塗っておきましょう」
 医者はそう言い、てきぱきと処置をしてくれた。その間小鳥は何の抵抗をすることもなく、大人しくされるがままになっていた。
 「ずいぶん賢い鳥ですね」
 医者が感心したように言う。
 「はあ」
 「まるで言葉を理解しているみたいです。ほら、薬を塗ろうとすると、こちらがやり易いように体を傾けるでしょう」
 そう言われて見ていると、確かに医者の言うとおりだった。
 最近はテレビなどで盛んに天才犬やら天才猫やらが紹介されているが、鳥というのもこんなに頭の良い生き物だったろうか。

 動物病院からの帰り道、僕は小鳥を肩に乗せて歩いていた。
 病院へ行くときは柔らかい布にくるんでいたのだが、怪我も心配ないということだし、どう考えてもこの小鳥が僕を置いて飛び去ってしまうとは思えなかった。
 それに、僕の上着のポケットには、あの干物を入れた例の小瓶が入っている。
 今朝ホテルの部屋を出る際に机の上に置いていこうとしたのだが、小鳥がまるで「これも持っていってくれ」と懇願するように促したのだ。
 小鳥がこの干物を置き去りにして行ってしまうなどとても考えられない。
 事実、寄り添うように僕の肩に止まりながら、小鳥はどこか緊迫した視線を僕の腰のあたりに向けている。何気なくその視線を辿ると、小瓶の入ったポケットをじっと見つめているのが分かった。

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