旅人シリーズ
D
それはどう見ても「可愛い」とか「か弱い」という一般的に小鳥に対して持つ印象からはかけ離れている。まるで僕という存在の隅々を余さず観察しているかのように、その黒い二つの闇が僕の体と心を射抜いている。
その小鳥と目が合った瞬間に感じたもの。
一言で言えば『恐怖』。そんな言葉がピッタリだった。
それでも勇気を振り絞って、僕はその小鳥に近付いた。
鳥は何の感情もない瞳で、ただ静かにこちらを凝視し続けている。
「怪我は大丈夫かい?」
少し緊張した声で尋ねると、小鳥はかすかに首を傾げた。
「どこか痛いところはないかい?」
もう一度尋ねてみる。
小鳥相手に言葉が通じるわけはないと思いもしたが、なぜだかこの小鳥には、こちらの言っている意味がちゃんと理解出来るような気がするから。
小鳥はゆっくりと首を回して周囲を観察する。
壁、天井、ドア、窓。それから僕に視線を戻し、もの問いたげな眼差しを向けてきた。
「ああ、そうか」
その視線の意味に気がついて、机の上に置いた小瓶を持ってくる。そして、小鳥の目の前に置いてやった。
「君が探しているのはこれだろう?大丈夫、ちゃんと取ってあるよ」
小鳥は念入りに小瓶の中身を確認する。
先ほどまでキーキーうるさかった干物は、どういうわけかすっかり大人しくなって、鳴き声どころか動くことすらしない。まさか死んだふりをしているわけでもないだろうが、その様子が何だか妙におかしかった。
「ぷっ」
思わず吹き出してしまうと、小鳥が驚いたように顔を上げる。
「ごめん。そいつ、さっきまでさんざん喚いていたくせに、君に睨まれた途端に大人しくなるからさ。よっぽど君のことが怖いのかな?」
小鳥はまたしてもくくっと首を傾げる。
その動作が思いがけず愛らしくて、僕の中でやっと緊張が解けた。
小鳥を驚かさないように気をつけながらベッドに腰掛けて、ゆっくりと手を差し出す。
小鳥は一瞬だけ身を固くしたものの、指先で優しく小鳥の背中を撫でてやると、やがて安心したように目を閉じた。
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