旅人シリーズ
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旅人シリーズV
夢の実
「――というわけで、もうしばらくここに滞在することにしました。後のこと、よろしくお願いします。……うん。こんなもんかな?」
僕は今、旅先の宿の一室にいる。
いつものように身軽にふらりと旅に出て、しかしいつもより少し長い旅になりそうなので、親友宛てにその旨を記しているところだ。
「旅に出ようと思うんだ」
「あっそ」
愛猫のリデルを連れて奴の家を訪ねた僕に、親友はまったく驚いた様子もなく、当たり前のようにリデルを抱きかかえた。
リデルもすっかり慣れたもので、奴の腕の中におさまると、すぐさまごろごろと喉なんか鳴らし始める。今では、飼い主である僕なんかより、よほど親友のほうに懐いてしまっている。
まあ、その原因は僕にあるので仕方ないが。
「で?今度はいったい何処へ行くつもりなんだ?」
「決めてない」
「期間は?」
答える代わりに、僕は軽く肩をすくめて見せる。
奴は別段気にした様子もなく、リデルをかまって遊んでいる。二人とも僕のことなんかどうでもいいらしい。
「じゃあ、行って来るよ」
そう言って玄関を出ようとする僕を振り向きもしない。
パタンと扉を閉じたところで、
「気をつけて行ってこいよー」
「ニャアーン」
家の中からかろうじてそんな声がした。
「行ってきます」
僕は苦笑しながら、扉の向こうの二人に告げた。
「これでよし」
今書き終えたばかりの手紙を折りたたむと、カバンの中から便箋とお揃いの封筒を引っ張り出す。
『水沢晴史(みずさわはるひと)様』
封筒の表に親友の名前を書いて、丁寧に封をする。
これを受け取ったときの奴の顔が思い浮かぶようだ。きっとすごく呆れた顔をして、その後はリデルと二人で大笑いするんだろう。
リデルを両腕で高い高いしながら爆笑する様子が容易に想像できた。
そして、そんな奴の姿を思い浮かべて、思わず僕も笑った。
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