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旅人シリーズ
G
 そう。あれはきっと、山が僕に見せた幻。不思議でちょっと不気味な白昼夢に違いない。
 『夢の実』だなんて、そんなもの現実にあるわけがないじゃないか。
 (少し山の霊気に当てられたかな)
 そんな風に考えながら、僕は昼間親友に宛てて書いた手紙のことを思い出した。そして、何だかんだと言いながら僕の帰りを待っていてくれる奴の顔とリデルの柔らかくてあたたかなぬくもりを。
 そんなものたちを、僕はとても懐かしく思い出していた。

 「手紙を出すのはやめようか……」
 心の中の呟きが思わず声になって出ていた。
 その直後に、僕の心はすっかり決まった。

 奴に出すはずだった手紙のかわりに、僕自身が明日朝一番のバスに乗ることにしよう。おかみさんのつくった煮物を奴へのお土産に少しばかり分けてもらって、リデルには途中の駅で何か見繕っていってやればいい。
 そうだ。そうしよう。
 僕には、帰るべき場所があるのだから。

 僕はすっきりした気持ちで顔を上げた。
 山の端から昇りかけた月が、一番星を引き連れて僕に優しくほほ笑みかけている。
 「さて、今日の夕食は何かな?」
 すっかり明るい気持ちで湯から上がった僕の心からは、すでに山で出会った女性と『夢の実』のことは跡形もなく消えてなくなっていた。









Fin.



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