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旅人シリーズ
F
 そんな言葉だけで納得できるはずもなく、彼も僕も無言で館長に詰め寄った。
 すると館長はまた例の寂しそうな微笑を浮かべ、まるで諭すかのように僕たちに言った。
 「あのウンディーネとユニコーンは禁忌を犯した恋人たちなのです。それゆえにウンディーネは銀水晶に閉じ込められ、ユニコーンは死してなお彷徨っています。二人の魂が籠もった水晶と角は、同じところに置けないのが定め。たとえ一緒にしてやったとしても、人外の力によってまた離れ離れにされてしまうのです。そうやって今までに、十二年に一度の逢瀬さえ果たせなかったことがあるのですよ」
 「そんな――」
 「だからルードヴィッヒさんと私は、銀水晶とユニコーンの角を、それぞれに所有することに決めたのです。持ち主さえ決まっていれば、二人を十二年に一度、必ず会わせてやることが出来るのですからね」
 「……」

 僕たちはもう何も言えなかった。
 彼の祖父であるルードヴィッヒさんと、この柿崎館長の間に、いったいどんな取り決めがあったのか。そもそも二人は、どうやって銀水晶とユニコーンの角を手に入れたのか。そして、ウンディーネとユニコーンの犯した禁忌が何なのか――。
 知りたいことはたくさんあったが、僕も彼もそれを口にすることは出来なかった。
 何となく、なのだけれども。まるで館長の寂しげな笑顔が、すべてを物語っているようにも思えたから。
 この世の中には、無理に暴かないほうがいいこともある。秘密は秘密のままでとっておいたほうがいいときもあるのだ。

 館長が銀水晶をもとの陳列棚にしまうのを見届けて、僕たちは『幻想博物館』を後にした。
 別れ際に館長と握手を交わし、彼がユニコーンの角とともに再びここを訪れることを約束して。


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