旅人シリーズ
E
悲しくも美しい恋人たちの時間は、あっと言う間に過ぎ去っていった。
僕たちが見守る中、ウンディーネとユニコーンは静かに寄り添っていた。言葉を交わすことも、熱い抱擁を交わすこともなく。
目を閉じ、額と額を合わせ、ただじっとお互いの存在を確かめ合っているようだった。
やがて月が傾き、白銀の月光が天窓から遠ざかっていく。
するとそれに合わせるように、ウンディーネとユニコーンの姿も徐々に薄くなり……いつしか完全に消えた。
僕たちは誰一人動かなかった。
黙って、身じろぎ一つせずに二人を見守っていた。
そして、二人の姿が消えて、どれくらいの時間が経った頃だろう。
「さて、銀水晶をもとの場所に戻しますかな」
のんびりとした口調で館長がそう言い、僕と彼は、まるでその言葉が呪文を解く合図ででもあったかのように慌てて顔を上げた。
館長はそんな僕たちを見て優しくほほ笑むと、ウンディーネの銀水晶を丁寧に持ち上げ部屋を出て行った。
僕たちはユニコーンの角を手に、急いで館長の後を追った。
「あの――」
彼が思い切ったように館長に声をかける。
「このユニコーンの角を、こちらに寄贈させてくれませんか?」
彼の言葉に、僕は心の中で深く同意した。
彼の意図が僕にはよく分かった。
彼は離れ離れになっているウンディーネとユニコーンを一緒にさせてやりたいのだ。触れ合うことは出来なくても、せめて傍に――そう思ったのだろう。
だが僕たちの予想に反して、館長はゆっくりと首を振った。
「それは出来ません」
「何故ですか?」
またしても僕たちは同時に言った。
館長は僕たちを振り向くと、悲しそうな笑顔を向けた。
「あなたたちの気持ちは分かります。けれどそれは叶わぬことです」
「何故ですか?」
もう一度、僕たちは尋ねた。
しかし館長の答えは、先ほどと同じだった。
「残念ですが、お断りします。銀水晶とユニコーンの角を一緒に置くことは出来ないのです」
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