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旅人シリーズ
D
 「あなたが来生有羽(きすぎゆう)さんですか。私は柿崎(かきざき)。この『幻想博物館』の館長をしています。あなたのことは、ルードヴィッヒさんから伺っておりましたよ」
 「祖父が、僕のことを?」
 「ええ。『もし自分が死んだら、ユニコーンの角は孫の有羽に譲るから。きっと有羽が、私の代わりに角を持ってきてくれる』――そう言っておられました」
 「……」
 彼は無言で館長を見つめた。
 館長はおだやかな瞳を彼に向けたまま、何とも表現しようのない寂しげな微笑を浮かべた。
 「……ルードヴィッヒさんは、お亡くなりになったのですね」


 館長に案内されて、僕と彼は銀水晶のある場所へ辿り着いた。
 広い部屋の真ん中に小さな大理石のテーブルが置いてあって、天窓から入り込む月光がテーブルの上を照らしている。その月光に守られるように、赤いビロード張りの箱の中で、銀水晶が美しく光っていた。
 「ウンディーネ」
 そうつぶやいたのは、果たして僕だったろうか、それとも彼だったろうか。
 彼はユニコーンの角を取り出すと、銀水晶の隣にそっとそれを置いた。

 「もうすぐです」
 館長が腕時計と天窓を交互に見ながら僕たちに言う。
 まもなくして、月が天窓のちょうど真上に来て、まばゆい白銀の月光が部屋中に降り注いだ。
 「わっ――」
 そのあまりの眩しさに、僕は一瞬ぎゅっと目を瞑った。
 しかし閃光はすぐにおさまったようなので、僕は恐るおそる目を開けた。
 するとそこには、しっかりと寄り添いあうウンディーネとユニコーンの姿があった。
 「……」
 僕たちは言葉もなく、神秘的な恋人たちの逢瀬をただじっと見つめていた。


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あきゅろす。
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