旅人シリーズ
B
だが、
「これは――?」
突然彼が僕の目の前に置いたものに、僕の視線は釘付けになった。
そんな僕の様子に、彼は満足そうに笑った。
「どうです?立派なものでしょう」
「これは、いったい何なんだい?」
尋ねた僕の声がかすかに震える。
そう。彼に質問しながら、僕の中には確かな予感があった。
たぶん僕はこれが何だか知っている。幼い頃に、たった一度だけだが、確かに目にしたことがある。
次に彼の口から出た言葉は、そんな僕の予想通りの答えだった。
「一角獣――ユニコーンの角ですよ」
結局、僕はバーの閉店まで彼と話し込んでしまった。
それでも僕たちの話は尽きず、自然と次の日もまた彼と会うことになった。
約束の時刻は午後七時。場所は『幻想博物館』の前。
「その時間にはもう博物館は閉まっているんじゃないかな?」
不思議そうに尋ねた僕に、彼は意味ありげに笑ってみせる。
「明日の夜、月が出てからじゃないと意味がないんですよ」
彼の提案に、僕はただ頷くしかなかった。
翌晩七時きっかりに僕が博物館の前に着くと、彼はすでにそこに居て、白い包みを手に僕を待っていた。
彼が持っているのは、あのユニコーンの角だ。
これから始まることを考えて、僕は思わず胸を高鳴らせた。
「時間に正確ですね」
彼はそう言って微笑い、僕たちは並んで博物館の門をくぐった。
「閉館してしまったのに、どうやって入る気なんだい?それに、銀水晶のある場所を君は知っているのかい?」
「なあに、何とかなりますよ。それにウンディーネの居場所なら、かれが教えてくれます」
そう言って、彼はユニコーンの角を撫でた。
僕はじっとそれを見つめた。
確かに、彼の話が本当なら――と言うか、彼がお祖父さんから聞いた話が本当なら、このユニコーンの角が、僕たちを銀水晶のもとへと導いてくれるだろう。
かつてこの角の持ち主だったユニコーンの魂が、きっとウンディーネを探し当てるに違いない。
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