旅人シリーズ E それにしても、ただの白い羽に青い色を塗っただけの『幸福の羽』とは――。あの紳士の言葉通りとんだ子供だましだ。 僕は少し呆れながら、カバンの中から、ハンカチに包んだ青い羽を取り出した。 「やっぱりこれもそうなんだろうな」 ため息とともについ苦笑が洩れてしまう。 しばらく眺めた後で、コップの水をその青い羽にかけてみた。 雨ですぐ流れ落ちてしまうくらいだから、水性絵の具か何かだろう。きっと僕の買ったこの羽も、すぐに色が落ちて白い羽に戻ってしまうに違いない。 そう思った。 だが、羽は青いままだった。 念のためもう一度水をかけてみたが、やはり鮮やかな青い色は少しも褪せない。 「いったいどういうことだろう?」 僕はしげしげとその青い羽を見つめた。 僕の手の中の羽は、白くなるどころか、太陽の光に照らされて虹色の光沢さえ放っている。その美しい青色は、どこからどう見ても人工的に塗られた色などではなかった。 僕はそのまま視線を露店のあった場所に動かした。 そこには客たちが捨てて行った白い羽がいくつも落ちている――はずだった。 「あっ?!」 僕は思わず声を上げた。 なぜならそこには白い羽など一本も落ちていなかったから。 そこにあったのは……… 「――それで?これがその『幸福の羽』というわけか?」 僕の話を聞き終えると、親友はどこか半信半疑な様子で青い羽を見つめた。 「信じられないかい?」 「うーん。まあ、自分の目で見たわけじゃないからな」 その奴らしい感想に、僕は苦笑を禁じえなかった。 [前へ][次へ] [戻る] |