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旅人シリーズ
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旅人シリーズT

幸福の羽






 僕はときどき無性に旅をしたくなる。
 見知らぬ街。そこでは誰一人僕のことを知らない。解放感にも似た孤独感。
 そんな状況に自分の身を置きたくなるのだ。
 それは喉の渇きにも似た抑え切れない衝動で、僕にとって旅をすることは呼吸(いき)をすることと同じだ。
 ただ、それは結局、きちんと帰るべき場所があるからだということも忘れてはいないけれども。

 そういうわけで、僕は、またしてもこうして一人で汽車に揺られている。
 行くあてなどない。目的もない。
 ただ本当にふらっと汽車に乗り、気が向いたところで汽車を降りる。足の向くまま気の向くまま、何とも自由な旅だ。

 「そんなことが出来るのは、お前が何の責任もない気ままな暮らしをしているせいだ」
 いつだったか親友にそう笑われた。
 確かにそうかもしれない。
 僕はどこかの会社に勤めているわけでもないし、まだ責任を負うべき家族――妻とか子供とかいったもの――も持っていない。
 作家…といえば聞こえはいいが、要するに売れない物書きだ。それに幸か不幸か、結婚というものにはとんと縁がない。
 亡き父がいくばくかの遺産を残してくれたので、幸いなことに贅沢さえしなければ日々の生活に困ることもない。
 だからこうして時々、何もかもに背を向けて僕は旅に出る。


 この街に辿り着いたのも、そんな旅の途中だった。
 一風変わった名前のその駅に降り立つ気になったのは、窓から流れ込んできた林檎の香りのせいだった。
 客のほとんどいない平日の昼下がりの汽車の中。僕は窓を半分ほど開けて本を読んでいた。

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あきゅろす。
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