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オリーブの木の下で
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 「きっとね、ユウイチ君も後悔してたんだと思う。キマちゃんにひどいことをしちゃった、って。でも、どうやってキマちゃんに謝ったらいいか分からなかったんだよ」
 「……」
 「それに、キマちゃんの羽が抜けたのも、キマちゃんが鳴かなくなってしまったのも、全部自分のせいだと思っていたのかもしれない。もしかしたら、ユウイチ君は、今でもずっと後悔してるのかもね」
 そう言って悲しそうに微笑む莉子に、空は甘えるように鼻を擦りつける。
 「うん。そうかも知れないね」

 「――あの、さっきから何をしているの?」
 突然頭上から声がして、私たちはびっくりして頭を上げた。
 するとそこには、心配そうに私たちを覗き込んでいるお姉さんの顔があった。
 「いえ、その、何でもないです」
 私と空を抱えて莉子があたふたと立ち上がる。それを見て、お姉さんがくすりと笑った。
 「面白い人ね。まるで動物とお話してるみたい」
 「まさか。そんなことありませんよ」
 答える莉子の声がかすかに上擦る。
 莉子ってば、嘘をつくのが下手ねぇ。
 「そうよね。ごめんなさい、変なこと言って」
 はにかみながら言うお姉さんに、莉子もつられたように苦笑する。
 それから、
 「あの……」
 「はい?」
 莉子は私と空の顔を交互に見てから、お姉さんの目をまっすぐに見つめた。
 「キマちゃんが人間の言葉を話せたらいいと思いますか?」
 「莉子?」
 私はつい不審そうな目を莉子に向けてしまう。どうしてそんなことを聞くのだろう。
 けれど莉子は私の問いかけを無視して、じっとお姉さんの答えを待っている。
 いきなりの妙な質問に、お姉さんはまたしてもくすりと笑った。
 「そうね。キマちゃんとお話できたら素敵だとは思うわ。でも、私はどっちでもいいわ」
 「どっちでも?」
 「ええ。キマちゃんが言葉を喋っても喋らなくても、キマちゃんが元気になってくれたらそれでいい。元気になって、キマちゃんが歌うことを楽しいと思うようになってくれたら、それが一番だと思うの」
 「……そうですか」
 「ええ」
 お姉さんはにっこりと頷く。

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