オリーブの木の下で
G
大好きなユウイチ君。優しかったユウイチ君。
それなのにどうしてこんなことになってしまったの――?
キマちゃんは精一杯の気持ちを込めて嘴を動かした。
「……コンニチハ」
「――!」
ガシャン!
ものすごい大きな音がして、キマちゃんは鳥かごごと床に転がった。
「ユウイチ、何やってるの?」
慌ててやって来たお母さんが倒れたキマちゃんの鳥かごを起こし、中にいたキマちゃんの様子を見た。幸いキマちゃんに怪我はなかった。
お母さんはユウイチ君を叱り、ユウイチ君は泣きながら部屋を出て行ってしまった。そんなユウイチ君を追って、お母さんも部屋から出て行く。
ひとり残ったキマちゃんは、鳥かごの中で何度も何度も同じ言葉を繰り返していた。
「コンニチハ。コンニチハ。コンニチハ……」
「それからね、キマちゃんの羽が少しずつ抜け始めて、キマちゃんは話すことをやめてしまったんだって」
「……」
私も莉子もすっかり言葉をなくしていた。
空はしょんぼりと項垂れながら、独り言のように話を続けた。
「ユウイチ君は、そんなキマちゃんを見ても、何も言わなかった。もう怒ったり言葉を強要したりもしなくて、そのかわり、前みたいに笑いかけてもくれなくなったんだ。黙ってキマちゃんの世話をして、時々ため息をつくだけだったって。そんなユウイチ君を見て、キマちゃんはますます悲しくなってったって、そう言ってたよ」
一息に言うと、空は大きな前足をちょこんと莉子の膝の上に乗せた。
「ねえ、莉子さん。ユウイチ君は、キマちゃんのことが嫌いになっちゃったのかな?」
空からの質問に、莉子は一瞬泣きそうに顔を歪める。それから、優しく空の頭を撫でながら、震える声で答えた。
「そんなことないよ。そんなことない……」
「じゃあ、どうして笑ってくれなくなっちゃったの?」
空は大きな茶色い瞳でじっと莉子を見つめる。
莉子は目を伏せて、そっと空と私の体を抱き寄せた。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!