オリーブの木の下で F 空から聞いたキマちゃんの話はこうだった。 キマちゃんは、お姉さんに引き取られる前、ユウイチ君という小学生の男の子に飼われていた。 ユウイチ君は鳥が大好きで、いつかインコか九官鳥を飼って言葉を覚えさせるのだと張り切っていたそうだ。ある日ペットショップでキマちゃんに一目惚れしたユウイチ君は、お父さんにお願いして、お誕生日のプレゼントにキマちゃんを買ってもらったのだという。 やっと念願のインコを手に入れたユウイチ君は、喜んでキマちゃんの世話をした。キマちゃんも、優しくしてくれるユウイチ君のことが好きだった。 ところが、そんなキマちゃんとユウイチ君に、とても不幸なことが起こってしまったのだ。 キマちゃんは人間の言葉が喋れなかった。 何度ユウイチ君から教わっても、どうしても「コンニチハ」以外の言葉を覚えることが出来なかったのだ。 「キマ、『ユウイチ』って言ってごらん。僕の名前だよ。ほら」 「コンニチハ」 「違うよ。ユ・ウ・イ・チ!『コンニチハ』が言えるんだから、他の言葉だって喋れるだろう?」 「コンニチハ」 「だから、違うって、キマ。『ユウイチ』って言ってよ」 「コンニチハ」 「あーあ。全然ダメじゃん」 それでもキマちゃんは一生懸命頑張った。 ユウイチ君も何とかキマちゃんに言葉を覚えさせようとした。 だけど――。 「何で覚えられないんだよ?!」 癇癪を起こしたユウイチ君は、キマちゃんの鳥かごを両手で掴み、ガシガシと揺らした。足元が不安定になったキマちゃんはよろめき、止まり木からころげ落ちた。 「……」 両方の羽を力なく広げて座り込むキマちゃん。 たぶんユウイチ君も、心の中では「しまった」と思ったに違いない。けれどユウイチ君はまだほんの子供だった。一度湧き上がった怒りを、そう簡単に収めることは出来なかったのだ。 「ほら、キマ。『ユウイチ』だよ。さっさと言えよ」 キマちゃんは悲しい気持ちでユウイチ君を見上げた。 [前へ][次へ] [戻る] |