オリーブの木の下で
E
いつ見ても本当に図体の大きな不細工な仔犬だわ。まあ、そこが可愛いんだけどさ。
「どうしたの?」
莉子の腕に抱かれたまま、私は体を捻って、出来るだけ空に顔を近づけようとする。
私の不自然な動きに気がついたのか、莉子も空を見つけると、その場にしゃがみ込んだ。
「こんにちは、空くん」
「こんにちは、莉子さん」
二人は律儀に挨拶を交わす。
もちろん莉子も空もお互いの言葉は分からないから、この私が通訳するはめになるんだけど。
「あのね……」
挨拶が済むと、空はおずおずと話し出した。
「僕、知ってるんだ。どうしてキマちゃんがあんな風になっちゃったのか」
そんなことを言い出した空に、
「それ本当?!」
私も莉子も、つい大声で詰め寄った。
「どうかしたんですか?」
「あ、いえいえ。何でもありません。あの、ちょっと失礼します」
「はぁ……」
びっくりして尋ねてくるお姉さんに何とか誤魔化して、私と莉子はそそくさと空の手を引っ張った。
受付カウンターの影に隠れるようにして、空に話を聞くことにする。
「いったいどういうこと?何であんたが知ってるの?」
早口に問い質すと、空はもごもごと口を動かした。
「キマちゃん、検査のために何日かここに泊まってたの。その間、僕がキマちゃんの話し相手だったんだよ。僕、なるべくキマちゃんのそばにいるようにしたんだ」
ちょっと得意げに言う空。
あんたのことはどうでもいいから。
「キマちゃんは喋れないんじゃなかったの?」
莉子が不思議そうに首を傾げる。
うん。たしかに私もそう聞いた。
空はのそのそと顔を横に動かすと、
「ううん。キマちゃん、まったく喋れないわけじゃないんだよ。ただね、喋るのが怖いんだって」
「怖い?」
「うん。特にね、人間と話すのが怖いって言ってた」
空の説明は端的で、どうにも全体が見えてこない。私も莉子も首を傾げるばかりだった。
このままでは埒があかないので、空に順を追って話してくれるよう促す。
空はしばらく考え込んだ後、ゆっくり口を開いた。
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