オリーブの木の下で
D
「もともとはね、薄いブルーの羽がとても綺麗なインコだったんですって」
いつの間に隣に来たのか、飼い主のお姉さんが、静かに話しかけてきた。
「病気ですか?」
インコを見つめたまま心配そうに尋ねた莉子に、お姉さんは力なく首を振る。
「分からないの。あの子、『キマちゃん』って言うんだけど、前は違うお宅で飼われていたのよ」
「え?」
私も莉子も、驚いてお姉さんを見つめた。
「知り合いのね、小学生の息子さんが飼っていたインコなの。去年の誕生日に、ご両親にねだってペットショップで買ってきたらしいんだけど、少しずつ羽が抜け落ちて、半年もしないうちにあんな姿になってしまったんですって。いつのまにか鳴くことさえしなくなって、きっと悪い病気に違いないって、病院にも連れて行ったけれど原因が分からなくて……」
「どういうことですか?」
「いろんな検査をしても、特に異常はなかったそうよ。とりあえずお薬をもらって様子を見たんだけど、ちっとも良くならないから、ペットショップに返すって言っていたのを、私が無理を言って譲ってもらったの」
「……」
私も莉子も言葉をなくして、ただじっとお姉さんを見つめていた。
お姉さんは、ガラスの向こうで震えているインコを見て、悲しそうに眉を寄せた。
「水沢先生が言うには、たぶん極度のストレスのせいでこうなったんじゃないか、って。いったいキマちゃんに何があったのかしら?」
私たちは並んで黙ったままキマちゃんを見ていた。
キマちゃんは止まり木の上で目を閉じたまま動かない。
(キマちゃん……)
せめてキマちゃんとお話が出来たら――。
そうしたら、少しは力になれるかもしれないのに。
私がそう思った時だった。
「ココ」
下のほうから私を呼ぶ声がした。
「空?あんた、いつ来たの?」
水沢先生の相棒である仔犬の空が、莉子の足元に寄って、情けないような顔で私を見上げていた。
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