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オリーブの木の下で
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 それから五分ほど待って、私と莉子は病院の中へ入っていった。
 受付の前のソファに若い女の人が一人で座っている。この人がインコの飼い主さんかな。
 お姉さんは、私たちを見ると、親しげに声をかけてきた。
 「ごめんなさいね、ご面倒をかけてしまって」
 「いいえ、とんでもありません」
 莉子が笑顔で首を振ると、お姉さんもにっこりと微笑んだ。そのまま私のことを見る。
 「可愛い猫ちゃんですね」
 「そうですか?ありがとうございます」
 ちょっと。何でそこで疑問形になるのよ。
 私はじろりと莉子を睨み、小さく抗議の声を上げた。
 「お名前は?」
 「この子は『ココ』っていうんです。『湖の子』と書いてココ」
 「へえ、可愛い名前。ココちゃん、こんにちは」
 お姉さんは優しい声で私の名前を呼んだ。
 「ニャウ(こんにちは)」
 「あら、ちゃんとお返事してくれるのね。いいなぁ。うちのキマちゃんも、そういう風にお返事してくれないかな」
 そう言って、お姉さんはちょっと寂しそうに笑った。
 「キマちゃん?」
 「あ、うちのインコ。今はあっちの部屋で待機中」
 お姉さんが指差した先は、診察室の隣にある動物用の待合室。この病院で飼われているロットワイラー犬の空も大概はここにいる。
 莉子は私を抱っこしたまま、そっとそのドアに近付き、窓ガラス越しに中を覗き込んだ。私も背伸びして、莉子と一緒に中を見る。
 いつも空が寝ている大きなソファの横に台があって、その上に銀色の鳥かごが乗せられていた。
 鳥かごの中には一羽のインコ。でも、何だか様子が変。
 「莉子……」
 私が声をかけると、莉子は顔を顰めながらじっとインコのことを見ていた。それなので私ももう一度インコに視線を戻す。
 インコは、鳥かごに渡された止まり木にちょこんととまり、目を閉じたまま動かない。眠っているように見えるけれど、時々ククッ、ククッと首を傾げるから、きっと起きてはいるんだろう。
 その小さな体は小刻みに震えている。
 何より異様だったのは、そのインコにはほとんど羽毛がなかったのだ。

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あきゅろす。
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